2025.02.03

養豚業の法人化

 今号より「梅山豚のあしあと」の続編をお届けしていきます。前回「梅山豚のあしあと」を書き終えた2015年12月以降、私たちと梅山豚は相変わらず波乱万丈の9年間を過ごします。是非お付き合いいただければ幸いです。

 1993年から梅山豚の経営を引継いだ昇ですが、23年を経ても未だに引継げないものがありました。それは養豚業の部分で、父弘の名義のままいまだに税務申告を行っていました。販売会社としての株式会社塚原牧場は、昇を社長として既に設立できて梅山豚の肉や加工品を販売していましたが、農地や梅山豚、豚舎設備などが絡む養豚部門はなかなか法人化できませんでした。
 一方で、着々と父弘は年齢を重ね76歳となっていました。実質仕事は引退していますが、形式的には養豚を行っているのは父で、こうしたねじれ状態は日本中の農家で起きています。
 東京で金融マンとして働いてきた昇はその経験を活かし、効率的で資金負担の少ない養豚業の法人化と事業継承を検討して来ました。しかし梅山豚や豚舎設備などを資本金として現物出資する方式での会社設立は現金を用意せずに済みますが、結局父が大株主となってしまい事業承継にはなりません。そこで昇が農業生産法人を設立しその会社が梅山豚と豚舎設備を父から買い取るという方法を選択しました。取引銀行に何度も何度も相談し、資金負担はあるけれどしっかり事業承継ができる形だと説明しました。
 しかし、当時のメインバンクは大幅に変わる取引形態に難色を示しなかなか決済がおりませんでした。そんな中、運良く別の取引銀行の理解を得られ、2016年3月株式会社塚原ファームを設立し同時に梅山豚と豚舎設備を父より買取ることができました。これで、昇が梅山豚事業を引き継いでから23年目にしてようやく完全に事業承継が完了したこととなりました。
 メインバンクを変えるという決断をしてまでこだわったのは経営の統合でした。高齢の父が営む養豚業と、社長の昇が経営する販売会社としての株式会社塚原牧場、父にもしものことがあった場合、相続が発生しこれまでのように梅山豚の生産と販売は継続できるのか?不確実性を取り除き経営を統合して梅山豚を継続していける体制を作りたかったからです。
 日本にわずか100頭しかいない梅山豚、その大半の70頭を高齢の父個人が保有する不安定な形は終わりました。梅山豚の血統を絶やさないための最後の難関を切り拓き、社長の昇は少しホッとしていました。しかし責任とともに負債も大きくのしかかることになりました。

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