2023.09.01

時間泥棒

 電車に乗るとついついウトウトとしてしまいます。ガタゴトという音と揺れが心地良いのです。このままぐっすり眠っていたいけど、目的の駅で降りなきゃならない、寝過ごしちゃダメだと自分に言い聞かせながらまどろむ時間のなんと幸せなことでしょう。
 しかし、最近の電車では寝ている人は少なくなりました。スマートフォンを操作している人であふれて、SNSやらYouTubeやらネットフリックスやらゲームが私たちを夢中にしています。常に持ち歩き、いつでもどこでも情報を浴び続ける私たち、便利な道具のはずのスマートフォンに完全に時間を支配されているのに気付きます。
 効率化の行きつく果ては、どこなのでしょう?ミヒャエル・エンデが1973年に書いた「モモ」はそうした矛盾を鋭く突いた有名な児童文学書です。人間の時間を奪う灰色の男たちが現れ時間を奪っていく。少女モモはその時間泥棒たちと戦い人間の時間を取り戻します。描かれているのは時間の大切さと、現代社会ではいかに時間に急き立てられて生きているかということです。どんどん時間に支配されていく現代社会への痛烈な風刺であり、人間らしく生きるということがいかに難しいかを教えています。
 そのスマートフォンの生みの親、アップル創業者のスティーブジョブズは、心のバランスをとるためにヨガや座禅に没頭していたと聞きます。今やデジタルデトックスと言われ、スマートフォンやパソコンなどの電子機器から離れ、何もしない時間が心と身体のバランスを取るうえでいかに大切か、開発した彼は解っていたのでしょう。座禅を通じて彼は直観力を研ぎ澄まし、注意をそらす存在や不要なものを意識から追い出す方法を学び、無駄をそぎ落とした美的感覚を身に着け、それを製品開発に活かしたのです。だから実の子供たちにもパソコンやスマートフォン、タブレットなどを使わないよう制限していたようです。夕食後は子供たちと本や歴史など様々な世の中のことについて話し合う事を大切にしていたと伝わっています。テクノロジーが私たちにどんな影響を与えるのかをジョブズほど的確に見抜いていた人はいないのでしょう。
 同じような事は他にもあります。新三種の神器と言われる食洗機、乾燥機付ドラム式洗濯機、ロボット掃除機はだいぶ普及して来ました。一昔前の食器を手洗いし、洗濯が終わった洗濯物を干し、掃除機をかけるなどの家事は少し軽減されたようです。しかし、生活に余裕ができたという話はありません。それらの機械にはさまざまな制約があるため結局時間もかかり神器というにはまだまだ未完成なのです。結局生活の豊かさはどこへ?時間泥棒の話は現代にも引き続く永遠のテーマでもあります。

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