熊とともに暮らす
連日のようにクマが人を襲うというショッキングな報道がされています。今年のクマによる被害は過去最悪となる見通しで、冬眠までは気が抜けない日々が続くという人は少なくありません。街中にクマが出没するというのは以前なら想像できなかったことですが、いまクマに何が起きているのでしょう。
国内では北海道にはヒグマ、本州以南にはツキノワグマが生息しています。生息数を正確に把握するのは困難とされますが、ヒグマはおよそ1万頭、ツキノワグマは1万5千頭程度と推定されています。実はツキノワグマは紀伊半島、中国、四国、九州、下北半島において「絶滅危惧地域個体群」として登録されており、そのうち九州はリストから除外され事実上絶滅が宣言されています。保護に熱心な方々からは人身被害があっても野生生物を殺したくないという声も聞かれ、実は保護と駆除のバランスが難しい動物でもあります。
クマによる人身被害は確実に増加傾向にあります。今年は4月から9月で109人と過去最悪のペースを記録しています。それに応じるように捕獲数も増えていて年間7000頭を上回っています。
なぜクマが人里に現れるようになったのでしょう。指摘されているのは里山の過疎化です。クマの生息する山から人里までの間には、里山があります。里山には農地がありこれまでは適切に管理されてきましたが、過疎化により荒廃が進んでいて人の気配が無くなっているところにクマが現れるようになり、里山は人里まで近いことからクマと接触する機会が増えました。
さらに、クマは庭先に置かれた生ごみを入れるコンポストや飼い犬のドッグフード、庭の柿の実などは苦労せず手に入る魅力的なエサが人里に多いという事を知り始めたようです。そうしたエサを狙いに人里へ下りてくるようになっているらしいのです。
クマは頭がいい生き物です。親や兄弟が人に殺されて人に対し恐怖心や敵意を抱いているクマが増えているから人が襲われているという説もあります。クマが出るから殺すでは解決にならないのです。ハンターの数も年々減っていて高齢化しています。捕獲して適切にそれを捌いて有効利用するという狩猟文化も今やほぼ無くなってしまいました。
どれくらいの捕獲なら健全な集団を維持しながら生き残ってくれるのか。クマの生息数や生態をしっかり理解し、人間側の管理をしっかり改善していくことは生物多様性の観点から欠かせません。地域の課題の解決は、生物多様性という地球規模の課題に向き合う事でもあるのです。