2024.10.01

夏を乗り切る知恵

 昨年の猛暑の影響を受け、梅山豚は8月より10月までの3ヵ月間チルド肉の出荷を休止しました。猛暑の影響は受胎率に現れ、通常は85%以上受胎しているものが昨年の夏は10%程度に大幅に低下してしまいました。さらに何とか受胎した母豚も分娩した子豚は非常に頭数が少なくこのような事態になってしまいました。日本の豚肉全体でも受胎率が下がって子豚が少なくなった影響により、東京食肉市場では今年史上最高値を記録したほどです。
 さて、この夏も事前の予想通り猛暑が続きました。昨年の苦い教訓を繰り返さぬよう今年新たに導入したのが大型の冷風扇、水が循環し涼しい風が母豚を冷やしました。気温が30℃に満たない日などは冷たすぎるのか風の比較的当たらない場所に避難する母豚も出るほどでした。それに加えて氷を冷風扇の前に置きました。10時と14時30分の一日2回、1kgの氷の塊を5個設置して冷やしています。氷は農場スタッフではなく、事務所のスタッフが総出で作ってくれました。分娩している母豚を冷やすためのものと併せて1日40個、夏を乗り切るためにチーム梅山豚として一丸となりました。
 農場の屋根には水の配管をして散水もしています。屋根を滴る水は最初触れないほど熱いですが、10分ほど流すとだいぶ冷たい水に変わります。気化熱で屋根が冷やされると室内は1℃以上下がりました。これはいわゆる打ち水効果で、古くから日本では行われていました。こうして夏を乗り切るための工夫をいくつも重ねいよいよ夏も終わり、今のところ昨年のような事態は起きませんでした。しかしもうこれでよしという事はありません。毎年予想を超える暑さが襲うからです。地球が沸騰しているかのような現代の夏、豚だけではなく、牛も鶏も受胎率が大きく下がっています。さらに日本だけではなくアメリカ、カナダ、ヨーロッパなどでも同様に熱波が襲い畜産家を苦しめています。
 現在では植物ばかりか動物も暑さに強い遺伝子の研究が進められています。これまでたくさん子豚を産むことを目的にしてきた豚の品種改良も、今後は受胎率が維持される品種改良に変化していくことでしょう。なぜなら受胎率が低下することで年間分娩する子豚が減ってしまうからです。
 一方中国原産の原種豚である梅山豚、改良されていないため暑さには弱い品種となっていきそうです。特に大陸である中国のカラッとした夏と、日本の湿度の高い夏では気温だけでは比べられない不快さがあります。梅山豚と一緒に激変する長い夏を乗るため、氷と風と水という一見古風な道具で立ち向かった私たち、夏を何とか乗り切りようやく爽やかな秋を迎えています。

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