酪農家の苦悩
飼料の高騰に悩む畜産業界において、とりわけ厳しい経営環境にあるのが酪農家と言われています。
もしかしたら、近い将来給食の牛乳が賄えなくなり、戦後のように脱脂粉乳になってしまうような事態さえおきるかもしれません。
牛乳をめぐる状況について考えてみます。
日本では畜産飼料のほとんどを輸入に頼っています。
養豚や養鶏・ブロイラーはその90%以上が輸入穀物飼料という現状で、ウクライナ情勢後国際価格が高騰し、同時に円安も重なったため飼料価格は高止まりしています。
そうした環境下では、輸入豚肉、輸入鶏肉においても価格が高騰しており、豚肉はその50%以上が、鶏肉は36%が輸入となっていて、輸入品の高騰が国産豚肉及び鶏肉の価格上昇を引き起こしています。
そのため、飼料価格の高騰を販売価格で一部吸収できているのが養豚と養鶏とも言えます。
一方、畜産の中でも酪農は特殊な立場です。
それは牛乳が100%国産となっていて、その買取価格である乳価は各地の酪農団体と乳業メーカーが原則年1回交渉して決めています。
2019年4月に1リットル4円値上げして以来、2020、2021年は据え置かれていましたが、2022年は11月より10円値上げし1リットル130円となっていて小売価格に反映されています。
この乳価の決め方には問題があります。
飼料の国際情勢を正確に反映していないため、輸入飼料に依存する酪農家にとって1リットル10円の値上げというのは8%ほどとあまりに少なく、大幅な赤字に陥っているのです。
加えて、酪農家にとっては副収入と言える子牛の販売市場が崩壊しています。
それは、飼料の高騰を受け子牛を購入して肉牛を生産することを躊躇する肉牛農家が激増したからです。
一頭13万円と言われたホルスタインの子牛価格はゼロにまで暴落し一時買い手不在となりました。
こうしたことから酪農家の苦悩はピークに達しています。
この間、酪農家の離農も増え続けています。
北海道では今年既に200戸近い酪農家が離農しているようで、酪農家の総戸数は13300戸にまで減少しています。
一方規模拡大により1戸あたりの飼養頭数は増え続け1戸平均103頭となっています。
安い乳価と高騰する飼料費によって廃業の危機にある国内酪農を守るためには、その不足分を国が補填することが必要不可欠です。
そうしないと100%国産では賄うことができず、消費期限の長いロングライフ牛乳を輸入することになるでしょう。
しかし、政府の対応は真逆となっています。
岸田政権は酪農対策に補正予算を付けましたが、飼育規模を縮小するため1頭減らすに当たり20万円を交付するとして全国の酪農家を唖然とさせました。
1頭引退させれば出荷する乳も減ってしまい、奨励金をもらったところで赤字でしかないからです。
政府はむしろ牛乳を買い上げ、国内外の援助に活用するために財政出動すれば、酪農家も消費者も助け、加工在庫も減り、食糧危機にも備えられるということは諸外国ですでに実証済みの常識になっています。
一刻も早く酪農を危機から救い出す施策が求められています。